農林水産省が公表している令和4年漁業・養殖業生産統計によれば、令和4年の漁業・養殖業の生産量は391万6,946tでした。そのうち、海面漁業の漁獲量は295万992t、海面養殖業の収獲量は91万1,839tとなっており、それぞれ前年に比べて減少しています。他方、内水面漁業・養殖業の生産量は5万4,115tとなっており、前年に比べて増加しています。
このように、日本を含めた先進国・地域の漁獲量は横ばいから減少しているものの、アジアの新興国を中心に漁獲量が増加しています。そのため、世界全体の漁業・養殖業生産量は年々増加しており、世界各国で水産資源の確保が課題となっています。
このような中で、今後ますます拡大が予想されているのが陸上養殖事業です。
陸上養殖とは
養殖事業には、大きく分けて海面養殖業と内水面養殖業がありますが、海面養殖業には漁業権が必要です。
漁業権は漁業法に基づく免許であり、漁業権がないままに漁業を行うと刑事罰が科されることがあります。海面養殖業を行うためには漁業権を得ることが必要ですが、新たに漁業権を取得することは容易ではありません。
そこで注目されているのが、いわゆる陸上養殖事業です。陸上養殖とは、漁業権が設定されている海面や河川・湖沼ではなく、陸上に創設した環境下で養殖を行うものであり、ごく簡単に言えば、陸上にプールを作ってその中で魚や貝類、エビなどを養殖するものを指します。
陸上養殖には、かけ流し式(天然の海水等を継続的に引き込み、飼育水として利用するもの)と閉鎖循環式(飼育水を濾過することで浄化し、循環利用するもの)などの方式があります。
陸上養殖は、従来の海面養殖に比べて、①飼育環境をコントロールしやすく生産性が向上する、②様々な魚種に対応できる、③環境負荷を軽減できる、などといったメリットがありますが、中でも④漁業権が不要である(漁業法の制約を受けない)ことが最大のメリットと言えるでしょう。
環境負荷の小さい形で水産資源を確保することは、社会的な貢献も大きく、SDGsの観点からも注目を浴びており、陸上養殖に新規参入する動きも活発化しています。
陸上養殖の法規制
陸上養殖は海面養殖と異なり、漁業権の取得が不要であり、漁業法の制約を受けません。
そして、従前は陸上養殖については何らの法的規制もなく、免許はもちろん、届出すらも不要とされていました。しかし、陸上養殖の状況を把握するため、内水面漁業の振興に関する法律に基づき、令和5年4月からは陸上養殖業を始める際の届出書の提出とその後の実績報告書の提出が必要になりました。
〈届出の対象となる陸上養殖〉
届出が必要になったといっても、すべての陸上養殖について届出が必要とされているものではなく、以下の内水面漁業の振興に関する法律施行令第2条に規定された要件に該当する陸上養殖が対象となっています。
(届出養殖業の指定)
第二条 法第二十八条第一項の政令で定める養殖業は、陸地において営む養殖業であって、次の各号のいずれにも該当するものとする。
一 食用の水産動植物(うなぎを除く。)を養殖するものであること。
二 次のいずれかに該当するものであること。
イ 水質に変更を加えた水又は海水を養殖の用に供するもの
ロ 養殖の用に供した水を餌料の投与等によって生じた物質を除去することなく養殖場から排出するもの
つまり、食用の水産物について、(a)海水や淡水に塩分を加えた飼育水を利用して養殖しているもの、(b)閉鎖循環式で養殖しているもの、(c)餌や糞等を除去せずに排水して養殖しているもの、のいずれかに該当するものが、届出制の対象となっています。したがって、淡水を利用し、物質の除去を行っているかけ流し式の養殖は対象外となっています。また、種苗生産やウナギ養殖も対象外となっています。
なお、この制度はあくまでも届出であり、(漁業権のような)許可や免許制ではありませんので、適切に届出をすれば陸上養殖事業を行うことは可能です。
〈実績報告書の提出〉
また、この制度において忘れてはならないのが実績報告書の提出です。実績報告書は、毎年4月1日から翌年3月31日までの実績について、4月30日までに提出することが必要です。
実績報告書の書式は水産庁のウェブサイトで公開されていますが、ここでは養殖した魚種や在庫数量、出荷数量等を記載して報告することになっています。
〈提出先・罰則〉
届出書や実績報告書は都道府県知事に提出することになりますが、複数の養殖場を経営している場合には、養殖場ごとに各都道府県知事に届出書・実績報告書を提出することとされていますので、注意が必要です。
〈現在の届出数〉
水産庁のウェブサイトによると、令和6年1月1日時点の届出数は、662件となっています。そのうち、最多が沖縄県(168件)となっていますが、ほとんどの都道府県で届出が行われています。
養殖の種類としては、魚類(ヒラメ、トラフグ等)が最も多く、その他(クルマエビ、バナメイエビ等)、藻類(ウミブドウ等)、貝類(エゾアワビ等)と続いています。
届出書・実績報告書の書式やデータについては、水産省のウェブサイトをご覧ください。
その他の留意事項
このように、陸上養殖は海面養殖に比べると規制が厳しいものではなく、届出と実績報告を行うことで新規参入することが可能です。
そのほかには、陸上養殖施設を設置する土地の利用権(所有権や賃借権等)が適切に確保されているか、陸上養殖を行うことが可能かといった点についても注意が必要です。
また、水産物等を運搬するトラックの出入りによる近隣トラブルの回避や、排水によって地下水や近隣の土地への悪影響が生じないようにするなどの措置を取ることも重要です。
これらの対応を適切に行わないと、事業を停止せざるを得なくなったり、想定外の損害賠償義務を負ったりすることがあり得ますので、新規参入の際にはこのような点についてもあわせて検討することが重要です。
当事務所では、陸上養殖に参入する際の法務アドバイスについても経験が豊富ですので、ご相談の際にはお問い合わせからご連絡ください。




