農地所有適格法人の子会社化:議決権要件と役員要件の特例

 複数の農場を別法人によって所有したり、農業法人のM&Aによって他の法人を買収したりする場合、農地所有適格法人を別の法人の子会社にしたり、親会社と子会社の役員を兼任することができれば、グループ会社として一体的な経営が可能になります。
 もっとも、株式会社などの法人が農地を所有する場合、農地法に基づく農地所有適格法人の要件を満たす必要があり、原則として法人が農地所有適格法人を子会社化することは認められていません。しかし、法律によって以下のような特例が設けられ、農地所有適格法人を子会社化したり、役員を兼任させることができる場合があります。

農地所有適格法人の議決権要件・役員要件(原則)

 法人が農地を所有する場合には、農地法第2条第3項に定める「農地所有適格法人」の要件を満たさなければなりません(詳細は「農地所有適格法人と農業への参入」をご覧ください。)。
 このうち、以下のような議決権要件と役員要件があるため、通常は株式会社などの法人が農地所有適格法人を子会社化することはできず、農地所有適格法人の役員を兼任することについても制限があります。

 〈議決権要件〉

 株式会社の場合、以下のいずれかの類型に当てはまる農業関係者が総議決権の過半を占めることが必要とされています。そのため、一般の株式会社などの法人が過半数の議決権を有すること=子会社化することはできないのが原則です。

  • 法人の行う農業に常時従事する個人(原則として年間150日以上従事)
  • 農地の権利を提供した個人
  • 農地中間管理機構を通じて法人に農地を貸し付けている個人
  • 法人に基幹的な農作業を委託している個人(作業委託農家)
  • 農地中間管理機構、地方公共団体、農業協同組合、農業協同組合連合会

〈役員要件〉

 農地所有適格法人の役員等は以下の2つの要件を満たす必要があります。一定の日数以上の従事が必要であるため、事実上、複数の農地所有適格法人の役員を兼任することは制限されています。

  • 役員の過半が、法人の行う農業に常時従事する株主等(原則年間150日以上)であること
  • 役員又は重要な使用人の1人以上が、法人の行う農業に必要な農作業に従事(原則年間60日以上)すること

議決権要件の特例

 このように、農地所有適格法人の議決権要件により、農地所有適格法人を子会社化(過半数の議決権を保有すること)はできないのが原則です。しかし、複数の農場を保有する別会社を効率的に運営するため、あるいは、近年、徐々に増加している農業法人のM&Aの選択肢の一つとして、農地所有適格法人を子会社化するニーズは着実に大きくなっています。
 そこで、農業経営基盤強化促進法の改正により、議決権要件の特例が設けられました。この特例を利用することにより、農地所有適格法人の全議決権を法人が保有することが可能になりました。

〈議決権要件の特例〉

 子会社となる法人が認定農業者であり、子会社の農業経営改善計画において、親会社からの出資に関する事項を記載し、市町村の認定を受けた場合には、親会社の議決権は農業関係者の議決権と同様にカウントされます。そのため、過半数を超えて(100%も可)議決権を保有することができ、子会社化することが可能になります。
なお、ここでのポイントは以下の通りです。

  • 子会社が認定農業者であること
  • 子会社の農業経営改善計画の変更をすること
  • 親会社が農地所有適格法人であること(認定農業者である必要はない)

 特に重要な点は、親会社も農地所有適格法人であることが必要なことです。したがって、農業に全く関係がない法人が親会社となることはできないことには注意が必要です(このような場合は、従前から認められているリース方式による農業参入とする必要があります。)。

役員要件の特例

 農地所有適格法人を子会社化する場合、親会社の役員が子会社の役員を兼任するニーズは大きいと考えられますが、農地所有適格法人の役員要件により、役員を兼任するには制限があります(各法人において一定日数の従事が必要とされるため、実際上、合計で2社までの兼任しか認められません。)。
 そこで、役員要件についても、農業経営基盤強化促進法の改正によって特例が設けられました。この特例を利用すると、親会社と子会社の役員を兼任することが可能になります。

〈役員要件の特例〉

役員要件の特例の要件は、以下のとおりです。

  • 親会社が子会社の議決権の過半数を保有していること(議決権要件の特例を利用することが前提)
  • 親会社が認定農業者かつ農地所有適格法人であること
  • 兼任する役員が親会社の農業の常時従事者かつ親会社の株主であること
  • 兼任する役員が子会社の農業に30日以上従事すること

 ここでのポイントは、議決権要件の特例と異なり、親会社も認定農業者であることが必要とされていることです。
 なお、子会社の農業に30日以上従事することが必要とされていますが、親会社と子会社のグループ共通の業務に従事した場合は、親会社と子会社の農業に重複して従事した(つまり、親会社でも1日従事し、同時に子会社でも1日従事したとカウントする)とすることが可能です。

特例の活用例

 農地所有適格法人の議決権要件、役員要件の特例が設けられたことにより、農地所有適格法人を子会社化することが可能となり、他産業と同様にグループとして一体的な経営を行うことができるようになりました。
 もっとも、これらの特例を利用するためには、親会社が農地所有適格法人であることが要件とされていますので、あくまでも農業を行っている法人が親会社となる必要があり、農業以外の事業を行っている法人が農業に新規参入する際には利用することができません。この意味では、子会社化が可能となったと言っても、農地法の根本的な考え方が変わったものではないことには注意が必要です。

 親会社が農地所有適格法人であることが必要であり、さらに役員要件の特例のためには親会社も認定農業者であることが必要であることからすれば、これらの特例は、他の農業法人をM&Aで買収する際に活用することが見込まれます。これまでは、株式譲渡の方法によって他の農地所有適格法人を買収することには議決権要件の制約がありましたが、この特例を使うことによって、制約を回避し、完全子会社化することもできるようになりました。
 また、そのほかに想定される活用例としては、複数の農場を取得したり、異なる品目の農産物を生産するために、別法人を立ち上げる場合が考えられます。法人を別にすることにより、それぞれ柔軟な経営を可能とすることができますが、同時に、別法人でも子会社化することでグループとして一体的・効率的な経営をすることも可能になります。

 この特例の活用例はまだまだ多くはないようですが、農業法人の経営の多角化やM&Aの増加により、今後はこの特例を利用した農地所有適格法人の子会社化も増加することが見込まれます。

 なお、この特例について、また、兼務役員の農業従事日数の考え方については、農水省が公表している以下の資料が参考になります。

農地所有適格法人の子会社設立(グループ会社化)における農地取得の要件について

基盤法施行規則第 14 条第1項第3号に規定する兼務役員の農業従事日数の考え方等に関する Q&A